長野県上田市の人気ラーメン店「麺道 千鶏」店主・大海勇也氏と、信州 酒井製麺の対談。店名の由来、師匠・麒麟児から受け継いだ“麺道”の覚悟、9席カウンターに込めた一対一の想い、そして製麺所とのパートナーシップのリアルを語ります。流行ではなく“バランス”を追求する麺づくり。その背景にある哲学と信頼関係とは何か。本記事では対談全文を掲載します。
店名 麺道千鶏の由来

大海
千鶏は鶏コンセプトで元々ラーメンをやりたかったんで、「名前 何にしようかな…」なんて考えているときに、(麒麟児オーナー)星さんが「その店名でその店がどんなお店かが分かるのが一番だよね」って言ってたのを思い出して。

大海
1000羽の鳥をも使った様な奥深いスープ。

大海
もう1個はお笑い芸人の“千鳥”が好きなんで。千鳥のような一癖でも二癖でもある、お客さんに刺さるようなお店になれたらなっていう。

大海
オープン当初はよく言われましたけどね。「こっちの千鶏はクセがねぇ」って(笑)。


大海
「麺道 千鶏」の「麺道」っていうのは、星さんの「麺道 麒麟児」の、いわゆる“苗字”から頂いたんですけど。

大海
本当にビシッとするというか、「付けてて良かったな」って思うときと、「うわ キツイな」って思うときと、両方ありますよね(笑)。

酒井
気が引き締まるところですね。

大海
本当に。
期待を背負っての独立

酒井
かなり期待されてね、オープンされて。でも、いざオープンすると、その期待を超えるようなね、皆さんの評価というのがあったと思うんですけど、あの当時って大海さんどういう気持ちで?

大海
酒井社長にオープン当初言ったかは分からないですけど、自分で言うのもあれですが、注目店として1歩目を踏み出して、それは「心地良いプレッシャーだなと思わないといけない」なと、毎日思ってましたよね。

酒井
仰ってましたよね。

大海
いざオープンしてみて、今までと勝手が違いすぎる、出来ないことだらけだなっていう印象。それでもお客さんは来てくださるし、周りの期待もどんどん膨らむし、その中で自分がどう表現するか、自分に何が足りないか、今でもずっと考えながらやっていくという感じなんですけど……

大海
今思い返せばもっと、やらなきゃいけなかったなって思いますね。今の知識とか、モチベーション、メンタルとかで過去に戻れるんだったら まだまだ、あのとき人気店なんて、そんなことはないと。

酒井
なるほどねぇ……

大海
皆さんにそうやって上げてもらっていただけ。僕の実力ではないと思っていますね。まぁ でも、いろんな人の顔がありますので、期待に応えられるよう頑張ってたんじゃないかな、とは思います。

酒井
スタイルとしてもね、大海さん。ラーメン一杯を提供するだけじゃなくて、お客さんとのその やり取りというか、会話もね 大事にしたいっていう。そのスタイルも非常に、今まであるかっていうとないスタイルとだなと思う部分もあったし。


大海
確かにそうですね。それを考えると、僕の師匠(麒麟児オーナー星氏)のお店があって、あのスタイルにものすごく憧れていて。

大海
皆さんそう思うと思うんですけど、僕が一番星さんのことを格好良いなと思っていて……憧れである存在、時に厳しく 時に優しく。ただ、あのスタイルをやりたかった、5年前には、と。

大海
そのスタイルを継承するわけじゃないですけど、「誰がやるんだ?」って言ったら僕なのかなっていう、勝手に責任感を感じてやってますね。

酒井
1回来れば顔を覚えられたりだとかね、そういったお客さんとしての嬉しさというか、それもあってリピートで来ていただくというところもあるんじゃないかなって思います。

大海
あれって嬉しいんですかね? 妻には「キモイからやめな」って言われるんですけど。
(スタッフ)お客様が座っていた席まで覚えてるんです


酒井
あ、そうなんですか!? それは嬉しいと思います。

大海
“覚えてる”じゃないんです。“思い出す”んですよ。
接客は得意ですか?

大海
いや、僕は多分めちゃくちゃ人見知りなタイプで。ただ、それを生業にしてお店開いている以上、使命感でしかないのかもしれないですね。

大海
星師匠という偉大な方がいて、たくさんの有名店の兄弟子さんたちがいて。そこに僕が一番下で入って、どれだけできるかな?というよりも、その方たちが作ってきてくれた歴史に泥を塗りたくないというか、その程度ですね 僕は。

大海
ただ、そのためにめちゃくちゃ勉強はしてます。お金の勉強とか製麺の麺の勉強とかっていうよりも、このカウンターで何ができるかな?っていう勉強は結構してますね。

大海
「一人一人に向き合う接客が得意ですよね」とかっていろんな方に言われるんですけど、酒井社長も一人一人に向き合ってくださっているじゃないですか。

大海
一店舗一店舗に視野広げたときに、そんなことをしてる人たちって当たり前にたくさんいて、別に凄いことはしてないのかなとは思ってます。
一対一の接客スタイルにこめる想い

大海
千鶏のロゴのニワトリさんが薔薇を咥えているんですが、薔薇って男性から女性に贈る“クサい様で素敵なプレゼント”みたいなイメージで。


大海
僕らが作る一杯は、お客さん一人一人に届けたいっていう想いで、カウンター9席にはしてますね。

大海
「それが できる人とできない人がいるんだよ」っていうのは星さんに修行時代に言ってもらった言葉で、背中を押してもらってやってますね。

大海
僕がしたいのって、自分の手元を見て欲しいからこのスタイルにしたとか、格好つけたいからこうしたとか、それも もちろんあるんですけど。

大海
そこが重きではなく、やっぱりお客さんに届けたい一杯。

大海
お客さんも、ラーメンをしっかり食べていただきたいっていう想いがありますね 僕は。それは多分 社長もありますよね。


大海
だからこそ 限定麺で、細かに製麺してくださったりとか、「ちょっとここを変えたいから」っていう“ちょっと”に対応してくださったりとか、助かってますね。

大海
酒井社長が作ってくれたものを僕が出してとか、「紡いでいく」っていうんですか?そういうのは。

酒井
あぁ。

大海
ラーメンを届けたときの表情って、ここでしか見れないじゃないですか。

大海
その表情を酒井社長に届けたいぐらい、素晴らしい表情してる人たち、たくさんいるんですよね。

大海
だからちょっとしたSNSのノイズには耳を傾けず、カウンターに広がっている景色が全てじゃないのかなって。

酒井
うんうん。

大海
何でもない1日に特別な一杯を出せるっていうのが広がればいいなと思って、9席じゃ限界を感じてきている様な感じはしますけど。

酒井
それはまた何か次のビジョンとかで考えられているみたいな感じですか?

大海
そうですね。もっともっと たくさんの人に“千鶏”ってものを、“千鶏の味”を体感してもらいたいなとは思ってますね。

信州酒井製麺との出会い

酒井
大海さんとの出会いは、麒麟児さんにね、いらっしゃって。

大海
僕が麒麟児にいて、酒井製麺さんも僕がいた当初からずっと取引してたわけではなくて、途中から酒井製麺さんに切り替わったっていう。

酒井
あのときに大海さん、限定メニューとか任されてて。

大海
そうですね。

酒井
限定用の麺の仕様で、いろいろやり取りしてて。

大海
思い返せば、限定麺を作り始めたのは、麒麟児でまだ製麺機が稼働していたときだったと思うんですけど。ちょっとだけ製麺かじった小僧が、大社長に麺の打ち合わせをするというのは、結構なパンチ力があったんですけど……

酒井
いやいや(笑)

大海
当時は何でもできると思ってチャレンジ精神でやってたんですけれども、酒井社長の優しさに助けてもらいながらやれていたのが凄く僕は感謝していて。そのまま独立っていうところで「麺も取引したいな」っていうお話をした感じですよね。

酒井
大海さん 自分でも作られてたから、結構製麺の知識だとか、そういったとこで結構深いところまで話ができたかなというふうに思いますね。

大海
そうですね。製麺屋さんの社長に麺の打ち合わせをする以上、知識入れておかないと。年齢は違えど対等にはお話したいなとは思ってましたんで、ちょっとだけ頑張ってました(笑)。


酒井
そのときから感じたのが、やはり すごく繊細なところにこだわる方だなっていう印象があって。

大海
たくさんの人に「面倒くさい性格だね」とは言われるんですが(笑)。でも社長はお付き合いしてくださる。

酒井
本当にね、他の人がこだわらないところをこだわるのが大海さんの良さというか、そこが、お客さんにも評価されているところかなっていう風には思いますね。

酒井
根本のところはスープにいかに合うかっていうところで考えられてると思うんですけど、やっぱ食感だったり色合いってところも非常にね、大海さんは気にされてていたり、あとは麺の風味だとかね。そういったところをものすごくこだわられるので、こちらも勉強させてもらいながらね、研究させてもらいながら、やらさせていただいているところがあるんですけど。
仕事のパートナーシップについて

酒井
感覚の擦り合わせみたいなのが、大分もうできてきて、スタートして若干微調整もするかってとこですよね。

大海
とにかく僕は 綺麗な整った麺にこだわってたんで、今は時代はなんか そっちじゃないみたいなお話もありますけど。


酒井
そこはもう 大海さんの色ですから。

大海
皆さんが言う流行りとか流行りじゃなくて、僕はこれが正解だと思っているので、そもそも流行り流行りじゃないというくくりではないんですよね。

酒井
でも割と、千鶏さんの麺て広い方に受け入れられるタイプのものだと私は思うんですけど。シンプルだけど深いっていう麺だと思うので。

大海
僕は 酒井製麺さんに作ってもらった麺を使うにあたって、一番気をつけているとこって熟成加減かなっていう。いつ作って、いつ届いて、いつから使い出しで、今何度でとか。

大海
それさえ気をつけておけば、言い方がアレかもしれないですけど、特徴的な麺ではないっていう。ラーメンってバランスが全てだと思うので、麺だけが良くても、スープだけが良くてもダメなので。その調和が取れている素晴らしい麺かなとは思っています。


大海
本当に社長と出会えなかったら、麺にもっとこだわらなかっただろうし、限定もこんなに作れてなかったかもしれないので。

酒井
そうですか?

大海
わりと僕ポッと浮かぶんですよね。今で言ったら「今週末寒いから、もっとあったかいラーメン作ろうかな」っていったときに、電話してみようかな、ぐらいの感じで電話をできちゃうかなっていう。

酒井
ありがたいですね。「今週末からやりたいですけど良いですか?」ってね(笑)。

大海
本当に申し訳ない(笑)。作りたくなるタイミングで作ったものが、お客さんにウケがいいんですよね。

酒井
でも そこにね、対応させてもらえるっていうと楽しいっていうか 嬉しいです。

大海
僕の従業員にも「社長さんは感性だから」「想いを伝えなさい」と、そんな感じで教えてます。

大海
「どんな感じの麺が欲しいです」って言うと、酒井社長が大体「どんなラーメン作るの?」っていう感じで。「こんなラーメンです」って言ったら「じゃあ こっちの方が良いんじゃない?」みたいな感じで。あと「何キロ欲しいの?」ぐらいですよね。

大海
やってく中で ちょっと微調整を重ねて、次回の限定麺は「あのときのこんな感じで」っていう、僕と社長の中で引き出しにどんどん材料が入っていく感じですね。

酒井
そういう感じですよね。


大海
勝手に良いお父さんだと思って(笑)。

酒井
あはは(笑)。

大海
甘々な部分もありますが、でもそこはしっかり作ってくださった麺に、僕らがちゃんと作らないとお客さんに良いものって届かないじゃないですか。

大海
最終的な調理の部分では手を抜かないように、自分に負けそうなときとか、そういうときは やっぱり酒井社長の顔を思い出すときもありますし、それで奮起して頑張っています。
酒井製麺を選び続ける理由

大海
僕の場合は多分、修行時代から社長と打ち合わせしたりとかしてたので、迷いなく酒井社長かなと思ってたんですけど。

大海
しっかりお話されて、フィーリングが合うかどうかとか、話を聞いてくださるのかどうかとか、そういうところが大事なのかなと思います。

大海
もっと物理的に数字で表したい人にも対応してくださると思うんですけど、やっぱりフィーリングですかね。

大海
いろんなタイミングがあって社長と出会えてお店をオープンして、だからうまくいってるのかなって言っても過言じゃないぐらい、良くしてくださっているなと思いますね。

大海
これからも、たくさんいろいろやっていきたいですし、無理難題を言うのかもしれませんが、お付き合いのほどよろしくお願いします!





